俳句ブームの中で読む死刑囚の獄中句集

東京も朝は0℃ということでだいぶ冷え込んできました。

寒く静謐な中で読むと突き刺さってくる本。

 

今回読んだのはこちら。

異空間の俳句たち―死刑囚いのちの三行詩

異空間の俳句たち―死刑囚いのちの三行詩

 

ここ最近、テレビで芸能人が俳句を詠む番組が人気ですが、

こちらは同じ俳句でも全く異質なもの。

死刑囚によって獄中で詠まれた句集です。

 

孤独を詠んだ句、後悔の句、自由をうらやむ句、故郷の句、母への句…

これらの中で特に印象的なのは、処刑前日や当日にしたためられた句です。

その中から一句。

 

よごすまじく首拭く

寒の水

 

何も残さないで去っていこうとするこの句からは

悟りの境地に行きついたような印象もうけます。

 

しかし被害者恨みや、またその遺族が残っているということを考えると、

私たちが悟りだとイメージしている場所とは違う場所に

行きついたと考える方がいいような気がします。

それがどこなのかは自分なりにじっくり考えていきたいです。

 

この本を読んで俳句には人にうったえかける強い力があると感じました。

皆さんも面白い、うまいと感じる俳句だけではなく、

いろいろな立場から詠まれた俳句に目を向けてみてはいかがでしょうか。

自分てどんな人?台所を観察しましょう。

 愛は台所に表れる。

 

今回呼んだのはこちら。

男と女の台所

男と女の台所

 

市井の人々の台所を取材すること140軒。

雑誌で取り上げられるようなオシャレな空間ではない

(オシャレなところもあるとは思いますが。。。)、

でも魅力的なエピソードの詰まった19の台所物語

 

著者は本の中で「台所に入っていくなんて図々しくないとできない取材」

とおっしゃっています。

しかし、物語一つ一つから取材相手に対する敬意と愛が感じられ、

ある時は寄り添い、またある時は近づきすぎない絶妙な距離感で

取材しているのがうかがえます。

そのため、きれいに見せようといううそっぽさはなく

人間くさいリアルがあり、それが最大の魅力となっています。

 

また、私の中でいい文章か判断するの基準の一つに「具体的な表現があることで

その場面をイメージできる」というのがあります。

今回の作品はまさに具体的な表現があり、少しの写真は入っていますが、

文章だけで台所の風景を想像させるテクニックがあります。

台所の風景という土台があるからこそ、

そこであったやり取りがイメージしやすくなっているのも特徴です。

 

人間は食べないと生きてはいけないものです。

だから台所には人間の営みが表れる。

そこに注目した著者の視点は新しく、人間の魅力を

再認識させてくれるものとなっています

 

ちなみに我が家の台所は一人暮らしを開始した約14年前から使っている

電子レンジ・トースター・炊飯器があり、故障することなく現役で働いています。

よく言えばものを大事にしている、悪く言えば変化しないという、

自分の14年間をあらわしたような台所になっています。

皆さんも自分の台所を観察してみてはいかがでしょうか。

「ブスにふられるより、美人にふられる方がダメージが少ない」

今回の名言。

「ブスにふられるより、美人にふられる方がダメージが少ない」

 

読んだのはこちら、

東山 彰良作品は直木賞受賞作の『流』依頼2作目。

『流』は骨太な内容に、スピード感ある展開が特徴でしたが、

今作も『流』同様にスピード感をもって読み進めることができます。

6つの短編から構成されており、内容としては今どき大学生の

有象君と無象君を中心とした男子たちが、ビッチちゃんや抜目なっちゃんといった

女性たちの言動に一喜一憂する甘酸っぱい青春ストーリー。

 

女性の描写が具体的で、ルブタンの靴を履いているとか、コートはバーバリーだとか、

「いそ~」とうんうん頷いてしまうキャラクターが読者にとってイメージしやすく、

現実のあの子に当てはめて読むことができます。

 

その他の描写も今どきの大学生ってこんな感じなんだろうなと思うことが多く、

どんな取材をしてこのポップでユーモラスな作品を作り上げていったのか

というのは興味がわくところ。

巻末の著者紹介を見ると、「1968年生まれ」と書いてあり、

今年50歳になる方が書いたのかと思うと驚きです。

 

ただ50歳という年齢(経験値)を感じさせる部分もありました。

それは引用の多さで、この引用と今どきの大学生をポップにユーモラスに

描いたバランス感が素晴らしい作品だと思います。

どちらかが多すぎると、読みにくいか砕けすぎている作品になってしまう。

知性とユーモア、このバランス感覚と、配分のテクニック

東山作品の魅力のような気がします。